「新しいシステムインテグレーターとして、不確実な未来に選択肢を与えたい」

AZAPA株式会社 近藤 康弘 代表取締役社長&CEO


私たちは今、時代の節目に立ち会っている。グローバル化により、国境を超えたコミュニケーションが加速し、ビジネスの不確実性は増大。自国の経済を守ろうとする「自国第一主義」が台頭する一方、IoTやAIを駆使した新しいビジネスは軽々と国境を超えていく。 次の変化を起こすのは誰か。AZAPA株式会社では、従来の壁を打ち破り、社会を一変させるようなキーパーソンを「MAGICIAN(マジシャン)」と定義。産業界に大きな影響を与える彼ら=Magicianたちへのインタビューを通じ、その軌跡をたどっていく。彼らの肉声はきっと、この世界の未来を占う道標となることだろう。

第1回は、AZAPA株式会社の代表取締役、近藤康弘。2008年に大手自動車メーカーから独立して以来、EVのプラットフォームとして高い評価を受けた「LS-EV」や、効率的な価値設計を実践するための開発プロセス「AZAPA-TDM(Total Design Management)」の提案など、自動車業界の最先端を走り続けている。

「きっかけは2008年のリーマンショック。盤石だった自動車業界に、変化が起きた」


一近藤さんがAZAPA株式会社を設立したのは、2008年7月ですね。

そうですね。独立するまでは自動車メーカーでエンジン制御開発に従事していました。当時も今も、絶対に潰れないだろうと思われている業界です。

一安定した世界から独立するには、どんなきっかけがあったのですか?

端的にいえば、自動車産業では、開かれたイノベーションは不可能だと思ったからです。僕が理想とするOpenなイノベーションの反対は、Closedなイノベーション。自動車産業界の閉鎖的な環境では、進歩に限界があると感じた。だったら自分で会社をやろうと。僕がAZAPA株式会社を起業した2008年は、リーマンショックの渦中。自動車メーカーからの人材流出が珍しいものではなくなっていました。逆に三菱航空機が開発していた小型旅客機「Mitsubishi SpaceJet(三菱スペースジェット、旧MRJ)」は活況で、エンジニアたちが次々と航空機産業へと流れていた。エンジニアとして意図しなくとも違う道を選択する彼らを見て、「お金だけのつながりって弱いな」と痛感したんです。自分の働く分野や、仕事に対する思いというか、不安定な社会にあっても、一緒に寄り添っていける会社を作らなければと思いました。


一会社を設立してから、今年で12年になりますが、“Magic”のように社会を変えたと思われる具体的なエピソードはありますか?

最も印象が強いのは、LS-EVの開発ですね。2010年、当社として初めて「ライトスポーツEV」というコンセプトカーを発表し、大きな反響がありました。当時は、世間的にも「超小型モビリティ」が話題になっていた。色んな会社が小型のモビリティを試作し、国土交通省も後押ししていたんです。そんな中で、僕らの「LS-EV」はEVのプラットフォームとして先駆けることができた。

(LSEV – Light Sports Electric Vehicle, 2010.「制御技術とIT技術の融合から生成されるEV」というコンセプトで企画。先進的なアイデアで自動車業界にインパクトを与えた)

一EVのプラットフォームの先駆者になる、とはどういうことですか?

今、自動車の仕組みが、かつてのエンジンからEVへと移り変わっています。それで何が一番大きく変わるかというと、誰もが車を作れるようになった。EVはエンジン車よりも部品数が少なく、比較的作りやすいんです。EVの時代には、研究から開発、製造、販売までのすべてを自社グループのみで完結させる「垂直統合型」のシステムから、各分野に秀でた外部のメーカーをうまく使って、柔軟に部品を組み合わせる「水平分業型」への移行が必ず起きます。長い間「垂直統合型」でやってきた日本の自動車メーカーは、この新しい流れに対応できていないのが現状ですが、これからは「水平分業型」を前提に、部品メーカーをうまくつないで、システムをインテグレーションできるような会社が必要になります。AZAPAはその意味で、新興企業ながら、機能開発能力が高い会社というポジションを確立してきました。このポジションを「Tier0.5」と我々は読んでいます。メーカーと同等の力をもち、自動車業界にMagicを起こす意思表示はしてきたと考えています。

「抜本的な変化に対応できない日本メーカーは取り残される」


一新規参入が難しい自動車業界で、AZAPAが自動車メーカーとして認知されたのですね。

そうですね。「垂直統合型」のシステムでは、外部からの新規参入が難しい。親会社と子会社の関係は合理的ではあるけれど、サプライヤーは単なる部品メーカーに甘んじることになります。子会社が、上流の設計や構想に携わるのは難しい。でもこれからは、日本のサプライヤーも欧州のように、世界の車のシステムにどんどん関わっていく必要があります。部品だけではなく、ソフトウェアもハードェアも両方売っていかなければいけない。今のように部品だけ作っているサプライヤーは、親会社に買い叩かれる現状から抜け出せません。だからこそAZAPAは、自動車メーカーの代替になるようなシステムインテグレーション力を伸ばしてきました。サプライヤーには当社を介して、どんどん世界を相手に売り込んでほしい。僕らはあらゆる国の産業クラスターの仲介役になりたいんです。

一仲介役になるということですが、AZAPA株式会社のようなベンチャー勢力がそれを担うのは珍しいことですよね。

自動車のモノづくりの中心って、今も昔もエンジニア。たとえば車のコントロール、ブレーキの性能、加速感みたいな味付けも含めて、ドライバーが心地よくワクワクするような車作りは、エンジン部門のシステム開発者が取りまとめています。これがEVの時代になると、「まとめ役」が決まらない。EVの設計は、エンジンに比べると大幅な容易さがあるものの、自動運転などの新機能やMaaSなどの新しいサービス設計を、誰がどうやってインテグレーションするのかが問題になります。だからこそAZAPAはその役割を担いたいと考えています。

(自社開発ツール TDM MBR Value. 開発に携わるすべての関係者がモデルベースを通して、システムの価値を設計したうえで協調した開発、摺り合わせができるコンカレントデザインを可能とする)

「散らばった技術を、ひとつに取りまとめる」


一新しい自動車の時代には、新しい取りまとめ役が必要なのですね。

散らばった技術を、ひとつに取りまとめる役割ですね。エンジンはもはや、過去の遺産となるかもしれない。そういう変化が数字として、世間的に認知され始めているので、AZAPAの役割も認知されるだろうと感じています。今求められているのは、車のシステムにタッチできるインテグレーター。社会のあり方や、人々の価値観の変化、そこから形成される、因果関係の相互作用をきちっと理解できないといけません。

一インテグレーターとしてのチャンスは今後、どこの国にありますか。

たとえば、インドネシアなどの東アジアでは、まだ移動においてバイクが主流です。こうした新興国は、内需を取り込んで成長するために、自国で生産できる自動車産業を作りたいと思っている。GDPに直結するからです。そこへ日本のサプライヤーが関わる余地はあるはず。日本のサプライヤーと東アジアをつなぐ「ハブ」的存在がいれば、自動車メーカーに入り込めますから。僕らは、日本の会社を海外につなぐハブとして、サプライヤーがグローバルに成功できるような“Magic”をかけたいと思っています。

「僕らは、世界に選択肢を与えたい」


一新興国の自動車マーケットを成長させることが、その国の経済発展にとっては重要なんですね。そこへAZAPAは、日本のサプライヤーが進出するハブの役割を担うと。

大きな言い方になりますが、僕らは世界に選択肢を与えたい。豊かな人がより豊かになる世界では、分断が進むばかりです。サステナブルな世界をつくるには、世界の7割の貧困を救うことが必要だともいわれています。 

人の「移動」は、経済にとって必要不可欠。昨今の新型コロナウイルスの流行で、改めてその大切さに気づいた人も多いでしょう。移動を支える物流など、他のサービスも踏まえて、自動車産業は経済を支える根幹です。たとえば自国で車を生産し、自国で消費することができれば、その国の経済は潤う。皆が自転車ではなく、自動車に乗れるようになる。GDPが伸び、貧困の解消につながります。そこへ僕らは貢献したい。

「日本の自動車メーカーが、当たり前を変えていく」


AZAPAは、自動車メーカーやサプライヤーの制約を受けずに、「当たり前」を変えられる唯一の日本メーカーです。サプライヤーだけでは、なかなかオープンなイノベーションを起こせないのが現状ですが、そういう会社もAZAPAと一緒に海外を目指せるようにしたい。今年(2020年)に入って、中国のメーカーとEV関連の合弁会社を作りました。AZAPAのインテグレーション力を海外と同レベルにするため、早稲田大学に計測ラボも作りました。オープンイノベーション機構で文科省、経産省なども巻き込みつつ進めています。CASEやMaaSといった自動車業界の変化を、社会の循環の起爆剤にして成長していきたいですね。

一これからの社会に変化をもたらす存在=マジシャンのような存在になるには、どんな心構えが必要でしょうか。

新しいことをやろうとすると、必ず制約にぶつかると思います。それを、他人の目や世間の空気だと言い訳にしている人もいるけれど、実は自分自身で透明な壁を作っていることも多いんじゃないかと思う。勝手に「これはやっちゃいけない」とか「すべきじゃない」って。でも僕らは純粋に、新しい世界や価値観をもっと大事にしていきたいんです。Magicのような、圧倒的な変化を常に考えている人は、できない理由を探すというより、やることをしっかりと目をそらさずにやっている。制約についてばかり考えていると、本当に欲しい物を見失う可能性があるでしょう。 

たとえば、技術が法律の制約を受けるのであれば、法律のことはあとで考えればいい。時代が変われば、法も変わるかもしれない。もし日本で限界を感じるなら、海外で研究や臨床をするのも選択肢のひとつです。収益源は世界でもいい。AZAPAも、2008年に起業して1年後には、中国やアメリカに現地法人を作りました。これからも、自らの壁を意識しながら意欲的に壊し、世界に驚きと感動を与えられる存在になっていきたい。一緒に「Innovating Beyond」をやっていきましょう。

近藤康弘
AZAPA 代表取締役社長&CEO


1970年生まれ、愛知県出身。エンジニアとして、多くのソフトウェア設計・開発に携わり、自動車分野では、エンジン制御理論の研究や量産開発、コネクテッド領域のサービスなど幅広く従事、知見を持つ。2008年、AZAPA株式会社を設立。 自動車業界で初の独立系Tier0.5プレイヤーとして、システム領域でのソリューションを提供する。2014年、Japan 東海北陸 Award 、EY Entrepreneur of the year 受賞、2018年、Forbs STARTUP OF THE YEAR(みずほ賞)などを受賞。


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本プロジェクト「THE MAGICIANS」は、AZAPA株式会社のカルチャーフィットプロジェクトとして2020年6月にスタートしました。コーディネーターは弊社CCO(Chief Culture Officer)のジェニア、ライターは北条、カメラマンは槇野翔太 で進めています。Instagramでは撮影の裏側も公開していますので、ぜひご覧ください。

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