-part5- 新時代のエネルギー循環を担うクルマ「EVコンバージョン」を量産へ
ヨーロッパを中心に「脱炭素社会」の流れが加速している。CO2を排出するガソリンエンジンの時代は終わりを告げ、モーターを動力とするEV(Electric Vehicle=電気自動車)の時代がすぐそこまで迫ってきた。今回は、新しい時代を支えるAZAPAのクルマ「EVコンバージョン」を紹介しよう。
現状のEVはまだまだ高級品
愛知県某所にあるAZAPAのラボ。この日は猛暑の中、複数のメンバーが新しいクルマ作りに勤しんでいた。その名も「EVコンバージョン」。既存車のエンジンを取り外し、バッテリやモーターを搭載して電気自動車へと作り変えたものだ。古い軽バンが、AZAPAの技術で新しいEVへと生まれ変わっていく。
なぜAZAPAが、このような改造車両を作るのか。プロジェクトの責任者である、システムデザインカンパニー所属の正岡広明はこう説明する。
「欧米や中国ではEVが普及し始めていますが、その多くが高級車です。日本でもEVはエンジン車より100~200万円も高く、中低所得者層が気軽に買えるものではありません。もちろん今後は少しずつ安くなっていくでしょうが、多くの方がEVを手にするのはまだまだ先になるでしょう。それまでの『空白期間』を埋めるため、AZAPAは既存車両をEVに作り変え、価格を抑え、価値を加えたEVコンバージョンの開発を進めています」
マス層が多く利用する軽自動車こそEV化を
EUは持続可能な未来へ向け、経済成長とCO2排出量の削減を両立させる「グリーン・ディール」を掲げた。日本でも新しい成長分野として、環境に優しいEVは期待を集めている。
しかしEVが富裕層にしか届かないのであれば、グリーン・ディールの実現は難しい。産業革命がそうだったように、マス層にまで新しいテクノロジーが行き渡らなければ、本当の意味での経済成長は望めないからだ。
「そこでAZAPAは、軽自動車や軽商用車など幅広い方が利用できる低価格のEVを普及させようとしています。全国の物流を支える商用車がEV化できれば、電気自動車は一気に普及するでしょう。現在は“ファブレス”といって工場をもたずに製作していますが、2023年には300台の量産化を目指しています」(正岡)
高いバッテリ価格は、エネルギー連携で解決
大きな課題は、車両の価格だ。EVコンバージョンは通常のEVよりも低価格で作れるとはいえ、バッテリと部品、改造費などを計算すると現状では、250万円ほどのコストがかかる。そこをAZAPAはどう解決するのか。
「エネルギーとの連携で、買う人にとってのメリットができるよう考えています。たとえば電気自動車のバッテリを、自宅や事業所の発電に使えるようにする。EVがクルマとしての機能に加え、電気をためて発電する機能をもつことができれば、人々の電気代負担を軽くできるでしょう。結果的に、クルマ本体の価格を下げずとも多くの人が経済的なメリットを享受できると考えています」
地域のエネルギーを、電気自動車が支える。クルマが単なる移動手段ではなく、発電を担う時代が来るかもしれない。
EVが地域のエネルギーを支える日
そのきっかけとなるプロジェクトが、1月18日からいよいよスタートしている。AZAPAが大手商社にコンバージョンEVを提供、ネットスーパーの配送車として使ってもらうと同時に、店舗ではコンバージョンEVを蓄電池としても活用するというものだ。
「こうした取り組みが広がれば、今後、たとえば地域の市役所で使うクルマをEV化し、災害時には非常用電源として使うなどの連携が可能になるでしょう。EVは単なる移動手段ではなくエネルギーとの連携で力を発揮する、いわば新しいモビリティなのです。電気自動車がマス層に普及すれば、エネルギーの使われ方も変わっていくかもしれませんね」
AZAPAが見据える、「脱炭素」の未来。そこには新しいエネルギー循環を生み、多くの人々の日常を支える新しいモビリティが待っている。
正岡 広明
システムデザインカンパニー VOO
1993年大学卒業後、半導体メーカーに就職。半導体ICの設計開発に従事した後、自動車部品サプライヤーにてスマートエントリー、エンジンスタートシステムなどを統合したボディ系統合ECUの設計・開発を担当。これまでに日本の自動車OEMに多くのECUを量産供給してきた。2018年からAZAPAに参画し、主にシステム制御系の技術、プロセスを提供している。