AZAPAの強みであるシステムインテグレーション⼒を⽣かしたEV開発
AZAPAのEV開発は、ユーザーが求める⾛りを数値化するところから始まる。乗り⼼地やエモーショナルな部分を独⾃のテクノロジーで数値化し、部品の動きに落とし込んでいく。カギは全体のシステムを理解して整理する「システムインテグレーション⼒」だ。
ユーザーの要求に応じた⾛りを設計する
正岡:今回、開発したコンバージョンEVは「ユーザーがどのような⾛りを感じたいか」という要求から創り込みました。ベースとなる車両は一般販売されている商用車です。スポーティな感覚というよりは “⽣活の⾜”として幅広く使っていただきたいですし、急激な加速はせず燃費も最⼤化したい。まずはこのような「要求」があって、それに応じたGマップを創り込んで数値化するのです。Gマップとは、⾞両との⼀体感、ドライバーの感性(乗り⼼地や安定感、スピード感など)に応じた⾞両の慣性⼒の関係を、独⾃の計測⼿法で数値化(モデル)して表現したものです。このGマップを中⼼に、ドライバーのアクセルの踏み込み量との差分をバランス(調整)しながら制御していきます。さらにGマップを切り替えることで、たとえば「もっとEVらしいスポーティな⾛りがしたい」といったユーザーの要求に答えることも可能です。仮にパワーモードを実現したければ、通常のモードよりも加速を感じられるように作り込めるアーキテクチャが最⼤の魅⼒です。
従来のクルマづくりとは逆の発想
南⾕:これまでは「パワーやトルクは、エンジンやモーターといった機械のスペックで決まるものだ」という考え⽅が⼀般的でした。よく最⼤トルクという⾔い⽅がされますが、従来のクルマづくりでは機械のスペックが先に決まっており、最⼤出⼒をいくらにして最⼤トルクをいくにしよう、アクセルをどれくらい踏んだらどれくらいトルクを出そうかという作り⽅が多かったんです。しかしこれは「⼈間の要求」とは全く関係なく、機械の側⾯から決めた作り⽅なんですね。⼈の要求をしっかり満たそうとすれば、機械がどうであれ⼈が感じるものを⽬標にしなければならないはずです。
⼈は絶対値を感じることには鈍感ですが、相対的なものの変化は⾮常に敏感に感じとることができる。たとえばこのテーブルの⼿触りにしても、ザラザラしているかツルツルしているかは、ただ⼿を置いただけではよく分かりません。でも⼿を動かせば、その変化で「ちょっとザラついているな」とか「ツルツルだな」という感触がよく分かるでしょう。⼈は常に、変化からそのモノの状態を繊細に感じ取ろうとしているのです。クルマづくりにおける変化とは、先ほど述べた「G」つまり加速度です。⾞が0km/hから60km/hまで加速するまでの、速度の変化ですね。またGも⼀定でかかっている状態では動きがよく分かりませんが、変化することで体感できる。エレベーターでも、ずっと等速で降りるときはGが⼀定ですが、スピードが変わるとGが変化して、その変化を⼈は気持ち悪く感じたり、逆に気持ちよく感じたりするわけです。このように「⼈がどう感じるかを⽬標値にする考え⽅」のひとつが、AZAPAのGマップです。スタートもゴールも⼈間の感じ⽅。そこからバックキャスティングして、システムの性能を最適化し、機能を連続的につなぎ合わせるんですね。
全体を理解したモデルベース開発
正岡:ユーザーの感性(要求値)を数値化したGマップを、パワーに置き換えてシステムに伝えるのが「パワーデマンド」です。指標となるGを作るためにはどのくらいの重量のものを、どんな加速度で動かすかというエネルギー計算が必要になります。その計算によって、モーターのエネルギーをどのくらい出すべきかが分かる。さらにはそれがタイヤの接地⾯でどれだけの⼒になればいいかといった部分に⾄るまで、すべてを制御で繋いでいくことが可能になります。機能と組織が分断されたセクショナリズムによるクルマづくりでは、モーターの担当者とECUの担当者がバラバラに分断された状態です。これではユーザー(=⼈)から伝達して、タイヤと路⾯への伝達のところまでを1つのシステムとして理解することはできません。全体のシステムがどのように繋がっていくかをモデル化し、それを理解して整理する。これが真のシステムインテグレーションです。部分的なシステムの理解ではなくクルマ全体、ひいては社会全体を1つのシステムとして捉えて⾞の機能に落とし込む。それがAZAPAのものづくりです。
スピーディーな開発ができた理由
南⾕:パワーデマンドを実際に制御するためには、ハードウェアを動かすコンピューターが必要です。ユーザーの要求を具体化できても、それをECUへ載せられなければ意味がありません。AZAPAでは⾃社で製作したECU、⾃社で作った制御を直接的に実装しています。コンピューティングを外注しないことで、よりスピーディーにEVを完成させることができました。
正岡:中国では、性能はさておき、⾮常に短い期間でEVを開発する企業が⽬⽴ってきています。国際的な競争⼒を発揮するためにも、AZAPAはモデルベースから制御の実装までを内製化したスピーディーな開発を重視しているのです。ECUへの実装には、マイコンそのものを正しく理解することが⾮常に重要です。あとはインターフェースと呼ぶ、ハードウェアを動かすための⼊出⼒への理解ですね。それは通信なのか直接的なのかを正しく理解しなければ、ECUを動かすことはできません。現在、制御モデルをそのままラピッドプロトタイプの機器へ実装し、試作⾞両を動かすことができますが、⾼価かつ、試作開発専⽤のため、その機器を搭載して、実際の市場へ投⼊はできません。実際の量産を視野に⼊れた形でコンピューターに落とし込む技術も必要となり、その技術もAZAPAでは持っています。
リダクション技術が⽣きてくる
南⾕:ここで当社のリダクション技術が⽣きてきます。もともと「モデル」を作るということ⾃体が、実際の世界で起こるさまざまな物理現象から必要な部分だけをすくい取るリダクションなんですね。
実際に起きるさまざまな物理現象から、ユーザーが要求する感性を満たすための「モデル」を作るわけです。それをさらにECUというマイコンに搭載していくのですが、モデルをECUにそのまま載せるだけでは動きが⾮常に遅くなってしまう。そこでまた、制御にとって本当に必要なところだけにリダクションをして載せるわけです。先のGマップもまた、リダクションの⼿段のひとつです。
普及のカギは機能のコストリダクション
正岡:EVを多くの⼈に普及させるには、正しく全体を理解したうえで、どこを最適化すればコストに影響するのかを把握することが最も重要です。本当にパフォーマンスの良い⾼級⾞はコストをかければ、造れますが、それでは経済活動を⽀える「⽣活の⾜」にはなりません。ガソリン⾞とEVを⽐べると、少なくとも最初の加速感はEVの⽅が優れていますよね。ただ、軽⾃動⾞であれば⾼速道路を⾛れるほどのシステムは必要ないわけです。それによってコストが⾮常に⾼くなってしまうのであれば、その部分を抑制しても軽⾃動⾞としての役割は⼗分果たせますから、あえてコストをかける必要はありません。ならば冷却システムも必要ない、航続距離も削れるという形で、どんどん社会に適応するシンプルなシステムへと削り取っていけるのです。軽⾃動⾞としての完璧を⽬指すことは可能ですが、そうして上乗せされたコストは結局、ユーザーが負担することになります。
COP26など、環境との共⽣を⽬指す社会基盤の再構築が強いられる今後、エネルギーとモビリティのセクターカップリングの実現は、これまでの⾃動⾞の機能的価値の追究ではなく、意味的価値をゼロから考え直せる勇気が必要です。今後はこのリダクションの重要性をさらに理解したうえで、コンバージョンという⼿段で早い時期からユーザーに「本当に必要な機能や性能は何か」を問うていきたいと考えています。
システムデザインカンパニー VOO
正岡 広明
⼤学卒業後、半導体メーカーに就職。半導体ICの設計開発に従事した後、⾃動⾞部品サプライヤーにてスマートエントリー、エンジンスタートシステムなどを統合したボディ系統合ECUの設計・開発を担当。これまでに⽇本の⾃動⾞OEMに多くのECUを
量産供給してきた。2018年からAZAPAに参画し、主にシステム制御系の技術、プロセスを提供している。
AZAPA 計測カンパニー VTO
南⾕ 邦公
前職マツダ株式会社では、i-stop(アイドリングストップ)やSKYACTIV(超⾼圧縮⽐ガソリン直噴エンジン)等エンジン制御を駆使した⾞両環境性能の改善に従事した。エネルギー効率改善領域でより広範囲に社会貢献することを⽬指し、2017年よりAZAPA株式会社で、⼈とクルマのつながりを紐解く感性の定量化や、実⾛⾏状態の⾞両挙動を台上再現する為の⾃動運転・動的計測・モデル化などに取り組んでいる。