グローバル化にともない、私たちはかつてない規模の課題に直面している。中でも環境問題については近年、多くの国が解決へ向けて乗り出しているところだ。そんな現代社会の「欺瞞」を見抜く人がいる。エネルギー問題に詳しい武田邦彦先生。彼にいわせれば、「現代の環境問題はウソばかり」という。“脱炭素社会”でクルマはどうあるべきか。目からウロコの本質を伺ってきた。
「脱炭素社会」のウソ
―「脱炭素社会」の実現に向けて、世界中でさまざまな目標数値が掲げられています。日本でも菅総理大臣が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と公言しましたね。
まずそもそも、「低炭素」とか「脱炭素」と言っていること自体がウソなんですね。僕らの体というのは全部、炭素でできているんです。低炭素社会って言ってる偉い人たちの体もぜんぶ炭素でできている。僕らがご飯やサラダを食べるのも、炭素を食べているわけです。もちろん自動車も今のところすべて炭素で動いているし、電気もぜんぶ炭素でできています。
原発を使わない限りはすべて炭素です。その原子力発電所というのも、火力発電所と同じくらいの炭素を出すんですよ。だからそもそも「低炭素」と言っていること自体がウソなんです。
―でも報道を見ていると、世界中で環境が悪化しているような印象を受けます。
世界には気温が上がっている場所もあれば、下がっている場所もあるんです。でもNHKは、気温が上がっている場所だけを報道しているんですね。たとえば南極では3~4年前に、20度という最高気温を出しました。ところが翌年、-95度という最低気温が出た。そうすると20度の方だけを報道して、歴史的な最低気温については触れない。
NHKがこうだから、まあちょっと普通の人が騙されるのは仕方ないかもしれません。でもこうした報道がもとで悪い政策が作られていけば、国はどんどんダメになっていきますよ。だから本当のことが必要なんじゃないかって、僕は思っています。
資源リサイクルも、一部の人が儲けているだけ
―では世界中で対策が進む「環境問題」自体、存在しないことになりますか?
今と便利さが同じ状態で石油の量を減らそうとか、そういう取り組みは正しいですよ。技術の進歩ですから。でもエネルギー削減のために便利さを手放して、飛行機も車もやめて歩こう、移動も流通も止めましょうというのは、やっぱり違いますよね。なのに現状は、必要のない環境規制をしてただ「環境屋さん」が儲けているだけなんです。
たとえば僕は繰り返し言っていますが、ゴミをリサイクルなんてしたら余計な資源を使うし、環境にも悪いんです。皆さんの税金も大量に使われちゃう。
典型的なのが家電のリサイクルです。今までは家電を1台平均500円で捨てていたんですよ。ところが、家電リサイクル法が始まって3000円になった。500円が3000円になって何が変わったか。ただ、リサイクル業者が差額を懐に入れただけですよ。業者にとっては環境が良くなったかもしれないね(笑)
環境のためにといって人々が騙され、余計な税金がかかる上に大して環境にも良くない。そういう偽善の社会はダメだと思いますよ。
日本の自動車は環境を汚していない
―環境問題を盾に、一部の人が儲けているという構図は他にもありそうです。
地球環境に何も負荷をかけないようにしたら、人間は自給自足で死ぬのが1番よいことになります。もちろん経済発展はしないといけないので、その折り合いをどこでつけるかを我々は長い間、考えてやってきたんです。
自動車業界なんか、非常によくやってきましたよ。昔は自動車の排ガスがすごく悪くて、自然の浄化能力をオーバーしていたんです。でも今の車は環境を汚してなんかいない。僕が若い頃は、排気ガスで次の信号が見えなかったくらいでしたが、今は名古屋の空を見上げてもきれいでしょう。煙でむせることもないし、喘息の患者さんも見ませんよね。
もう日本の自動車は、環境を汚してなんかないんですよ。技術が進歩して、排気ガスなどの有害物質はもう自然の浄化能力を下回っているんです。
―では、環境のためにたとえば電気自動車を普及させる必要もないということですか?
というかね、電気自動車でもなんでも、自動車は自動車として環境問題とは関係なく進化すべきなんです。今よりもっと走り出しがスムーズになるとか、快適になるとか。それってエコうんぬんではなく、ただ技術の進歩として改善していけばいいことなんですよ。電気自動車でも水素自動車でもいい、技術者が新しい技術を求めて、新しいエンジンを開発しようというのは当然ですからね。
「エコで安いだけの車を作っているメーカーは、いつか潰れる」
―でも“脱炭素社会”という社会のトレンドに乗らないと、自動車業界は儲からないのでは?
いい自動車を作れば儲かりますよ。ではいい車って何かというと、2つ条件がある。まずは「実用的な車」です。ある場所までいちばん早く快適に行けて、たくさん荷物を積めるとかね。しかし車はそれだけじゃない。夢とか人生とか、そういうものを満たしてくれることが大切なんです。
フェラーリがなぜ存在するかといえば、やっぱりあの車には夢があるからですね。いつかは助手席に女の子を乗せたいとか、そういう楽しみやロマンも車には必要なんですよ。エコだからとか、経済的に助かるというだけの車を作り続けていると、自動車メーカーはいつか潰れますよ。
「乗る人にとって、快適で楽しいクルマを」
―自動車メーカーは環境問題に左右されず、魅力的なクルマを作るべきということですね。
そう。エコじゃなきゃ開発できないとかっていうんじゃなくて、ただいい自動車を作るために努力するべきですね。だからAZAPAにも「環境に優しい」とかではなくて、快適で楽しいクルマを開発してほしい。新しい技術を使って、乗る人にとって魅力的なクルマをね。
たとえばガソリンをいちいち入れるのって面倒でしょう。僕だったら宇宙にマイクロウェーブの発電所を作っておいて、太陽の光を受けて、それをマイクロウェーブとGPSで供給していつでも走れる車なんかいいと思うね。あとはアクセルとブレーキを間違えて困るとか、信号だって自動車も来ていないのに赤のままでしょう。改善してほしい点はいくらでも見つかる。自動車業界はまだまだやることがあるし、AZAPAには日本の自動車メーカーとしてぜひ魅力的なクルマを開発してほしいね。期待していますよ。
武田 邦彦
科学者。1943年生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。旭化成工業などを経て、芝浦工業大学工学部、名古屋大学大学院などで教鞭をとり、現在は中部大学特任教授。これまでに文部科学省中央教育審議会専門委員、工学アカデミー理事、芝浦工業大学評議員、NEDO技術委員、日本工学教育協会常任理事などを歴任。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)などでの分かりやすい解説が人気を博し、 著書多数。近著に『50歳から元気になる生き方 70代の今がいちばん健康な科学者が実践!』『今、心配されている環境問題は、実は心配いらないという本当の話』。
本プロジェクト「THE MAGICIANS」は、AZAPA株式会社のカルチャーフィットプロジェクトとして2020年6月にスタートしました。コーディネーターは弊社CCO(Chief Culture Officer)のジェニア(Yevheniia Hrynchuk)、ライターは北条、カメラマンは槇野翔太で進めています。Instagramでは撮影の裏側も公開していますので、ぜひご覧ください。